HEXA BLOG
ヘキサブログ
about ヘキサいいモノづくり道ゲームデザインプログラム
『FINAL FANTASY 零式 HD』我ら来たれり!(テクノロジー編)
今日3月19日は「ファイナルファンタジー零式 HD」の発売日です!
こんにちは、メインプログラマーのヒラオです。HD移植について弊社で担当しました!
今作では規模も技術も大きく新しく変わるため、弊社で過去HD化に携わったスタッフが一同に集結して制作に携わることとなりました。
この日を迎えられて嬉しく思います。
この記事ではプログラマーの視点で”技術“の切り口で少し専門的な話にもなりますが作品制作の舞台裏のお話をしたいと思います。
今回は記事2本立てです! 『FINAL FANTASY 零式 HD』我ら来たれり!(ビジュアル編) もよろしくお願いします。
HD化として主に技術的なグラフィック面での改善点・強化点をご紹介します。
尚、この記事については先日大阪で開催されたカンファレンス KANSAI CEDEC 2015 にてスクウェア・エニックス様に許諾をいただき弊社で制作事例として講演しました。
講演資料を公開しましたのでさらにこの記事よりも詳しく知りたい、という方は下記のリンク先の資料を御覧ください。
当時よりも少し技術説明の部分を加筆して136ページのボリュームでお届けします。
「FINAL FANTASY 零式HDにみる 新しいHDリマスター」講演資料 完全版
■両プラットフォーム フルHD 1920×1080
PSP当時の解像度は480×272で、フルHD解像度となった1920×1080では
描画面積は約17倍の面積比になり情報量が大幅に増加します。
弊社ではHD化作品では前世代プラットフォームからフルHD対応には拘って制作をしています。
PlayStation4 / XboxOneの世代ではこの解像度がほぼスタンダードになってきていることもあります。
両プラットフォーム1920×1080でレンダリングすることでどちらも変わらない体験をしていただけることを目指しました。
HDということで高解像度化はもちろんのことですが今の技術トレンドを網羅しつつ最適化高速化を最後の最後までおこなっていました。
■PSP当時の表現の「継承」と新しい次世代表現の「融合」
移植作品では原作の良さや演出意図をそのままの空気で伝えることが大切な使命になります。
当時に感じたものを変わらず継承していくことが前提条件ではありますが、
ファイナルファンタジー零式 HD ではスクウェア・エニックス様からの熱い要望で技術投入での画質向上に挑戦しています。
ヘキサドライブとスクウェア・エニックス様の「技術のコラボレーション」です。
エンジニア技術は主にプログラマー中心のヘキサドライブ担当、
キャラクターデザインやモデリングは主にスクウェア・エニックス様が担当することで両社の強みが作品に反映されています。
弊社でもUIグラフィックなど制作し、スクウェア・エニックス様でも原作プログラマーが参画してのプレイ感改良がされています。
又、映像表現が世代を飛び越えて劇的に変化するため、原作スタッフがシーン構成監修と再調整に入っています。
PSP世代では明度0.0~1.0の色味の調整でのアートワークでしたが、
DirectX11世代では性能向上でHDR表現が今まで以上に容易になり、1.0を超える輝度表現も扱う世界になります。
全くの別物でもある構造を共存するかたちで「融合」させる試みです。
■物理ベースレンダリング (Physically Based Rendering)
PlayStation4 / XboxOneでのDirectX11世代では従来のレンダリングからさらにリアリティ向上のために物理ベースレンダリングを導入しています。
この恩恵でグラフィックが従来よりもさらに進化することになります。
”物理ベースレンダリング”とは現実世界で起きている光の物理現象をシミュレートする技法です。
より一層、本物らしさが出て空気感や質感が描き出されます。
又、輝度計算を正確にするためにはリニア空間での計算・照明が必要になりますが、これらも標準導入しています。
物理ベースレンダリングでは主に「反射率・金属度合(metallic/metalness)」「表面の粗さ・ツヤ具合(roughness/shininess)」というシンプルな情報で様々な素材が表現できます。
従来の質感単位で沢山シェーダーを作っていた頃とは作り方が変わっています。
特に金属や革製品装飾品などひと目でその効果がわかるくらいに変化しています。
又、HDR輝度をトーンマッピングで通常の0.0(0)~1.0(255)の明るさの範囲に変換しますが、
その中でも良好な発色が可能になるフィルムシミュレートのFilmicTonemappingを明順応・暗順応できるようにカスタムしたものを採用しています。
【左下】 PSP当時のレンダリング結果 【中央】今回のHD版物理ベースレンダリング適用結果
又、物理ベースになることでキャラクターがどのような環境照明下に居ても説得力ある照明結果を得ることができるようになりました。
■Image Based Lighting
大域照明(Global Illumination)の一環として導入しています。名前の通り画像イメージを元に照明計算を行う技法です。
全方位からくる光の輝度をピクセルに格納しておき、それを反射計算の結果からサンプリングすることで輝度とするシンプルな手法です。
物理ベースレンダリングで必要な情報(特につや消し具合)をミップマップに格納しておき反映出来るように拡張するスタイルです。
又、普通に環境マップを行うと見た目と一致しない問題が発生しますが視差補正(Parallax Correction)を行ってズレる現象を改善しています。
ツールを作成し、Image Based Lighting用のキューブマップをシーン内で撮影し生成変換するようにしています。
■ディファードレンダリング (Deferred Rendering)
今世代標準的な手法としてディファードレンダリングを導入しています。
PSPの頃のグラフィックの仕組みを取り払い、全て入れ替えて現行DirectX11世代のレンダリングシステムに載せ替えています。
これによって設置可能な光源数が無制限になり、物理ベースレンダリングのための様々な付加情報をポリゴンに持たせることが出来るようになっています。
又、照明にはClusteredShadingを採用しています。照明計算が効率化され、高速化に寄与しています。
■ポストエフェクトフィルター (Post Effect Filter)
ファイナルファンタジー零式 HD では通常のシーンレンダリングに加えて比較的多くのエフェクトフィルターを導入しています。
その比率が全体の約50%にもなります。かなり厚めにエフェクトを施しているということになります。
HDRブルーム、レンズフレア、など最近のゲームでは一般的になった効果も多数新規追加されていますがその一部をご紹介します。
被写界深度表現 (Depth of Field)
レンズのピンぼけ表現です。世代が新しくなり性能向上の恩恵で六角の絞り形状を伴うぼけ表現を導入しています。
又、今回は原作にはない新規の表現として、敵対象物をロックオンした時にもズーム&注目効果が出るようにしています。
モーションブラー (Motion Blur)
躍動感を表現するカメラぶれ・被写体ぶれを表現する効果です。
迫力が増しますが、フレーム間の補間効果も見込めるために滑らかさが増して感じられるようになります。
これは主に映画など秒間24フレームのフィルム撮影でもカクカク感をあまり感じないことからも情報量の付加効果がわかります。
同じフレームレートでもモーションブラーがある方が中間フレームを含む表現になり、滑らかに感じられます。
残光表現 (After Glow)
TVモニターの輝度以上は「眩しさ」を表現できませんが”眩しい”という感覚は経験則でも認識されます。
センサーや網膜は高輝度の光を受けると反応が若干遅れることで残像となってがわずかに載ります。
今作では弊社の研究室のページにもある視神経モデル網膜シミュレーションの高速化簡易版を導入することで映像に説得力を付加しています。
特に残光は元の光の補色になることや、だんだん青緑にカラーシフトしていく「プルキンエ現象」を表現することで
肉眼で感じられる見た目に近くなるように配慮しています。
これによって眩しいものを”眩しい!”という感覚を錯覚で感じ取れるために臨場感が増します。
ローカルリフレクション (Screen-space Raytraced Reflection)
最近のハイエンドゲームでは一般的になりつつあるオブジェクトの映り込み反射表現です。
従来は”なんとなく映り込んでいる感”がする環境マップを使った擬似表現でしたが、
DirectX11世代ではGPU演算性能向上の恩恵でリアルタイムレイトレーシングが比較現実的な速度で動作するようになっています。
この手法は画面内(スクリーン空間)の奥行き凹凸情報で光の反射を追跡して実際に映り込むオブジェクトを計算する方法です。
そのために今までよりも映り込みに説得力が増し、配置オブジェクトの接地感や質感も良く感じられるようになります。
物理ベースにおける材質(ラフネス/メタルネス)やフレネル反射なども適用された状態で合成しています。
環境光遮蔽 (Screen-Space Ambient Occlusion)
この手法も最近ではごく一般的なものになりますが 「角や狭い奥まったところが暗くなる」 という表現をするためのフィルターです。
SSAOの手法のひとつScalable Ambient Obscuranceをベースにしてテンポラルスーパーサンプリングして高速化しています。
■キャッチライト/女優ライト (catchlight)
現実世界でも女優が撮影するときにカメラの方向などから光を当てて陰影を柔らかくしたり、逆光で暗い印象になることを軽減したりします。
物理ベースで制作していることもあり、この概念も品質向上のために導入しています。
キャラクターの活き活きした姿がシーンの中で埋もれてしまわない効果もあります。
■画面のチラつき低減 (Temporal Anti-aliasing)
画面でピクセルのエッジがギザギザしていることを”エイリアシング”と呼びますが、いつものエッジエイリアシング(ジャギー)はアンチエイリアシングで低減除去することが可能です。
HDRの場合は従来のこのエイリアシングに加えてスペキュラーエイリアシングが新たな刺客として加わります。
モアレもAAもばっちり対策しているのにまだチラチラするという現象です。
主に鋭いハイライトに発生し、1ピクセル未満の小さなハイライトがこの問題を引き起こします。
動いたときに画面のピクセルがチラチラとチラつくような現象の原因になります。
HD化にあたっては今まで画面のちらつきには非常に気を配ってきています。これらを駆逐するべくスペキュラーエイリアシング対策を施しています。
ハイライトのところにゴミのようにチラツキが載る現象が抑えられています。画面の安定性にも効果があります。
本日配布公開したPowerPoint資料の中にアンチエイリアシング適用の比較動画がありますので興味がある方はご覧ください。
■ディスク読み込み時間の短縮/高速化
原作プラットフォームが携帯ゲーム機であるPSPということで当時のメモリ容量の制限でシーンの切り替えが小刻みに行われています。
その構造もPSP当時のものが移植再現されているわけですが、今作はHD化によってデーターサイズがテクスチャー解像度や枚数で大幅に増大しています。
魔導院の中やイベントなど移動の際にはディスクから読み込む頻度も多くなっています。
PlayStation4 / XboxOneではBlu-rayディスクから内蔵ストレージ(HDD)に読み込まれて高速化されますが、さらにこれを改善するべく、必要なものをメモリ上に展開して展開済のものを再利用することによってディスクリードの制御を高速にしています。
つまりRAMディスクというHDD/SSDを遥かに上回る最速のストレージからの読み込みになります。
システムは旧来そのままでも快適にプレイしていだだけるように少しでも高速化効果が見込めるような工夫を仕込んでいます。
今作はハードウェアの世代が大幅に3世代跳び越える移植でした。
今の技術も投入する、新しいHD化のスタイルとしての開拓と挑戦でした。
色々紹介してきましたがいかがだったでしょうか?
美しくなったオリエンスの世界を皆さん自身で見て感じていただければ幸いです!!
※ タイトルに関わる全ての掲載画像/権利は株式会社スクウェア・エニックスに帰属します。※
「FINAL FANTASY 零式」:©2011 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
「FINAL FANTASY 零式 HD」:©2011,2015 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
CATEGORY
- about ヘキサ (166)
- 部活動 (6)
- CG (18)
- プロジェクトマネジメント (1)
- 研修 (5)
- 美学 (1)
- いいモノづくり道 (230)
- 採用 -お役立ち情報も- (149)
- プログラム (188)
- デザイン (99)
- ゲーム (274)
- 日記 (1,104)
- 書籍紹介 (113)
- その他 (875)
- 就活アドバイス (20)
- ラーメン (3)
- ライフハック (25)
- イベント紹介 (10)
- 料理 (23)
- TIPS (7)
- 怖い話 (3)
- サウンド (5)
- 子育て (1)
- 筋トレ (1)
- 商品紹介 (21)
- アプリ紹介 (31)
- ソフトウェア紹介 (33)
- ガジェット紹介 (12)
- サイト紹介 (10)
- 研究・開発 (34)
- 回路図 (4)
- アナログゲーム (40)
- 交流会 (21)
- 報告会 (3)
- インフラ (25)
- グリとブラン (6)
- カメラ (9)
- クラフト (27)
- 部活 (14)
- 画伯 (15)
- カレー (6)
- 音楽(洋楽) (6)
- 映画・舞台鑑賞 (43)
- 飼育 (5)
- いぬ (8)
- ねこ (19)
ARCHIVE
- 2024年
- 2023年
- 2022年
- 2021年
- 2020年
- 2019年
- 2018年
- 2017年
- 2016年
- 2015年
- 2014年
- 2013年
- 2012年
- 2011年
- 2010年
- 2009年
- 2008年
- 2007年